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Sunday, November 19, 2023

[知りたい聞きたい伝えたい]#安全・安心なジビエ食べるには? - 日本農業新聞

鮮度保ち加工施設へ

解体時に傷や健康状態確認を

 高タンパク、低脂質で栄養価の高いジビエ(野生鳥獣の肉)。おいしくて注目を集めるが、家畜と違って野生のため、感染症の病原体や寄生虫が付着している可能性もある。安全・安心にジビエを食べるには、どうすればいいか──。狩猟、解体、消費それぞれの現場の衛生管理を取材した。

各工程のポイント


狩猟→消毒し放血

 11月上旬、午前5時30分。気温3度、目が覚めるほどの冷たい風が吹く長野県富士見町の八ケ岳山麓。フィーヨ、フィーヨと鹿の鳴き声が響き渡る。記者は同町の狩猟者、濱口敏昭さん(58)の鹿の捕獲に同行した。

 軽トラックに揺られ、濱口さんが仕掛けたくくりわな20カ所の確認に回った。「傷つく前にわなから外してやらないと。獲物が暴れて死んでいたら肉は傷んで、ジビエ用には回せない」と濱口さん。直径十数センチのわなでの捕獲。広い山の中での鹿との知恵比べは毎朝繰り広げられる。

 6カ所目のわなに鹿がかかっていた。前足を動かせず、おびえた様子の鹿。濱口さんは、すぐに状態を確認した。脱毛が激しかったり、痩せ過ぎたりしていると病気の可能性があるためだ。「45キロくらい。状態は良さそうだ」。食用可能な個体だと判断し、木の棒で鹿の頭をたたいて失神させ、ナイフを消毒してから首に刺して放血した。

 濱口さんは「安全・安心なジビエの提供には鮮度維持が大原則。素早く放血して、1時間以内に食肉加工施設に運ぶことを心がけている」と強調する。

解体→認証制度も

 濱口さんが仕留めた鹿肉は、同町にある食肉処理施設「信州富士見高原ファーム」に運ばれた。年間500~600頭の鹿を解体する同ファームの荻原宏一さん(34)は「解体では、肉の状態を何度も確かめながら作業する」と話す。

 濱口さんら契約猟師から運び込まれた鹿は、解体前に改めて傷や健康状態を確認する。解体時は皮を剥いだ後の皮膚や摘出した内臓の状態を調べる。

 荻原さんによると、皮膚に寄生虫がたくさん付着があったり、内臓に疾患があったりする個体がまれにいる。「異常があれば廃棄することが重要だ」と強調する。

 ジビエを取り扱う食肉加工施設は小規模のため、全国で牛や豚を扱う施設数の約5倍となる750施設ある。ただ、国が安全な食肉処理施設と認める「国産ジビエ認証制度」の取得は34施設(2023年8月時点)にとどまる。同ファームは19年に認証を取得した。

 認証基準は、①厚生労働省のガイドラインに基づく衛生管理②捕獲個体情報をまとめた表示ラベルの順守③トレーサビリティー(生産・流通履歴を追跡する仕組み)の確保──などだ。

 日本ジビエ振興協会は「狩猟者や食肉処理施設が指針と異なる自己流で解体したものも流通している」と指摘。研修会を開くなど認証取得を後押しする。

消費→「生は厳禁」

 ジビエは適切に処理をしても、寄生虫や病原体による腸管出血性大腸菌、E型肝炎など食中毒のリスクがある。日本ジビエ振興協会は「生食は厳禁。必ず加熱調理してほしい」と注意を促す。

 肉眼で異常を確認できなくても高確率で寄生虫が付着している。そのため、調理で使うまな板や包丁などは洗浄と消毒を徹底する。

 ジビエを安全に食べるには、中心部まで十分加熱をする必要がある。一方、鹿肉やイノシシ肉は火の通し方によっては肉が硬くなってしまう場合もある。

 家庭で簡単に作れるおいしい料理として同協会は「鹿肉のから揚げ」を薦める。作り方は、鶏のから揚げと同じように調味液に肉を1時間ほど漬け込んでから、揚げるだけ。調味液にヨーグルトを加えると、肉が柔らかくなり、ジューシーな食感が楽しめるという。

利用量を2倍に

 農水省は2025年度までにジビエの利用量を19年度比で約2倍となる4000トンにする目標を掲げている。ただ、22年度の利用量は2085トンで目標とは大きな開きがある。

 野生鳥獣の狩猟、捕獲数は年々増えているが、ジビエ利用は1割程度にとどまる。

 イノシシについては、豚熱感染確認区域で捕獲したものでも同省の手引に従って処理すればジビエに利用できる。一時期ジビエの利用は低迷したが、同協会によると近年は捕獲頭数が増え、ジビエ利用は回復し、増加しているという。


<取材後記>
 野生鳥獣による農業被害は深刻だ。鹿や熊による人的被害も問題となっている。捕獲した野生鳥獣をジビエとして利用することで、鳥獣被害をマイナスからプラスに変えられる。

 有害鳥獣捕獲の現場を初めて取材した。濱口さんはわなにかかった鹿を慣れた手つきで素早くとどめを刺した。「人間にとっては有害鳥獣だが、捕獲した個体に無駄な苦痛を与えたくない」という言葉が印象的だった。命を無駄にしないよう、利用をもっと広げるためにジビエの魅力を伝えたい。(岩下響)

知りたい聞きたい伝えたい~agriZ~
 若い農家の立場に立って、知りたいこと、聞きたいこと、同世代に伝えたいことを、若手記者が取材します。取材してほしいテーマや「就農なんでも相談室」の相談を募集します。メールはreporter@agrinews.co.jp、はがき、手紙は〒110-8722 日本農業新聞メディアセンター部若者面係まで。記者から問い合わせをする場合があるので、氏名、年齢、連絡先を明記してください。

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