地雷除去に従事する、ヤジディの女性たち
ハナ・キダーは、子供のころにシンジャルの地を夢見ていた。シリアで生まれ育ったものの、母の語った、親類の暮らすイラク北部のシンジャルの話は忘れない。「いつも頭のなかで想像していました」と彼女はビデオ通話越しに、微笑みながら語る。「それは美しく平和なところでした」。 そして今、キダーはシンジャルに住んでいる。 “コミュニティにとって特別な場所”と彼女の言うシンジャル山近くの村に、夫と3人の子供と暮らしているのだ。ヤジディ教徒のキダーは、シンジャル山こそがノアの箱舟が最後に漂着した地だと信じている。この岩山の山頂は、昔から迫害を受けた人々が逃れる聖域と考えられてきた。 2014年8月、IS(いわゆる「イスラム国」)から逃れた4万人以上の彼女を含むヤジディを救ったのがこの山である。住んでいた村々から追われ、たどり着いたこの山で、人々は何ヵ月、あるいは何年もの間、避難生活を送った。国連の発表によると、ISによる大量虐殺によってヤジディ5000人が殺害され、7000人もの成人女性と少女は捕らえられ、戦闘員に性奴隷として売られた。 「皆、殺されはしまいかと不安でした」。現在28歳のキダーは、ISの戦闘員が山を包囲したときのことをそう語る。幸運にもキダーはクルディスタンへ逃れられ、村が解放されるまでは同地の国内避難民キャンプで暮らした。一家が帰村したのは2016年5月だった。その数ヵ月後にキダーは、紛争のあった地域の地雷除去活動をする慈善団体マインズ・アドバイザリー・グループ(MAG)の地雷除去作業員に志願した。 「ヤジディの人々は皆、シンジャルを戦争前の状態に戻すために貢献したいと思っています」とキダーは言う。「だから戦争の残存物を取り除き、命の危険のない土地に戻そうとする組織があると聞いたとき、私はそこで働きたいと強く思いました」。 ヤジディの地の中心部にはいまだにISの負の遺産が残る。迫撃砲、弾頭、手榴弾などの不発弾に加え、至るところにISが故意に放置した即製爆発装置(IEDs)があるのだ。IEDsは容器、鍋、携帯電話、子供の玩具など、さまざまなものに仕掛けられており、地雷除去作業チームは、地面や住宅の中を綿密に調べ、これまで人々を死傷させてきたIEDsを探索する。 2020年12月初旬には、シンジャルから南へ車で10分ほどのカバシヤ村で遊んでいた4人の子供がIEDsを踏み、2人が犠牲になり、他2人は重傷を負った。 だからこそ、キダーや多くのヤジディの女性たちは地雷除去作業員になることを選ぶ。「私の仕事は『私たちは強く、決して負けない』というISへのメッセージです」とキダーは言う。この決意は、近年公開されたナショナルジオグラフィックのドキュメンタリー『火の中へ(Into The Fire)』の中にもはっきりと見て取れる。 同作品は、全員女性から成る地雷除去作業チームを率いるキダーを追ったものだ。あるシーンでは、キダーは庭の手入れをし、3人の子供の食事の世話をしている。他方、次のシーンでは、日よけ帽をかぶり、陽光で光る金のイヤリングをつけたキダーが、戦争で荒廃した町で不発弾の爆発、地雷除去、IEDsの探査に取り組んでいる。 地雷除去作業は「男の仕事」とみなされてきた。それは、時間と大変な労力を要する危険な重労働だからだ。しかし、この見方は変わりつつある。 現在は男女14人からなるチームを率いるキダーの仕事が始まるのは午前5時。MGAの拠点に到着すると指示を受け、チームと合流する。それから皆で爆発物のある村に車で向かい、午後2時ごろまで除去作業を行う。現場では一歩一歩の動きに危険が伴うものの、それはキダーが子供のころに夢見た、平和で地雷のないシンジャルにするための一歩一歩でもある。 キダーは男性優位の領域でのジェンダー平等に向けても大きく貢献している。女性チームリーダーとして、これまで男性メンバーの抵抗にあったことはないかと聞かれると、「私や女性の同僚が、この仕事を始めた当初は、地域にはとても奇妙なこととして捉えられました」と言った。「でも同時に寛大に受け止めてくれました。夫や家族、親類、そして爆発物を除去した土地の住人は応援してくれました」。 近隣の村出身の作業員ホリヴァン・ケロ(22)も同様のことを述べる。「私の地域では男女は平等です。だから私が地雷除去作業員になっても問題ありません。皆、私のことを誇りに思ってくれています」「怖くもありません」。 大量虐殺後にケロの家族はドイツに移住したが、ケロは村に残って村の復興に従事することを望んだ。「この地に爆発物がなく、これほど危険でなかったら、私の家族は今もここに住んでいたと思います」と話す。彼女の背後の壁にはイラク北部の地図が貼られ、爆発物の残る地域に付けられた赤い点印が、狼煙のように隠れた戦争の傷跡を見せつける。 2016年、MAGは地雷除去組織として、初めてイラクで女性の地雷除去作業員を採用した。現在24人のヤジディの女性がMAGで働いているが、モスルでさらに女性10人を近々採用する予定だと、MAGイラクのディレクターであるジャック・モーガンは言う。 「彼女たちは、非常に熱心に除去作業に取り組んでいます。彼女たちにとっては、それは自分たちのためなのでしょう」 1月初め、MAGで活動する24歳の女性が、イラクのテレファル地区にあった軍需品保管庫の爆発で命を落とした。作業員が日々直面する危険の数々を思い起こさせる事件だった。 イラクでは約1800平方km(注:島嶼部を除く東京都の面積程度)の土地に爆発物が埋まっている。1980年代のイラン・イラク戦争、湾岸戦争、2003年の米国主導のイラク戦争、2014年のISによる占領などの度重なる紛争の結果だ。 イラク政府は2028年2月までの爆発物の完全除去を目指しているものの、モーガンはこの見通しは甘いと考えている。「かつて1年で作業員が除去できたのは、15平方km程度です」と述べた。新型コロナウイルスの流行も足かせとなり、通常1年で6750個の地雷を除去するところ、MAGが昨年処理できた地雷は1200個だけだった。
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