1923年のきょう、東京や横浜は炎に包まれた。
関東大震災から100年、華やかなビルが立ち並び、発展した首都は、地震に強い街となっているのか。社会は、被災時にも誤った情報で混乱せずに冷静さを保てるのか。まだまだ不安を抱えている。
関東大震災は、本震に加えて余震も相次いだ。強い揺れで建物が倒れ、大規模な火災が次々と起き、沿岸部を津波が襲い、山崩れも多発した。災害のデパートとも言われる。台風の影響による強風で火災が広がった複合災害の側面もある。犠牲者は約10万5千人に及んだ。
■いまなお脆弱(ぜいじゃく)な首都
関東大震災後の帝都復興事業では、リーダーの後藤新平が壮大な復興構想を作った。区画整理や道路、公園の整備が行われた。すべては実現できなかったものの、整備された幹線道路や燃えない鉄製の橋は現在も使われている。
震災の22年後、東京は空襲で再び焼け野原になった。戦災復興では、区画整理などが計画通り進まず、東京五輪や高度成長期の開発で、災害に弱い埋め立て地などにも街が拡大。街を縫って作られた高速道路で景観が損なわれた。
いま、首都は各所で再開発が進み、姿を変えつつある。
2000年以降、規制緩和で高層ビルが急速に増えた。ゆっくり長く揺れる長周期地震動の被害を受け、停止したエレベーターに閉じ込められる人も出るだろう。高層マンションなら水や食料を抱えた階段上りを強いられる。高層建築に限らず、湾岸などでは、地盤の液状化による建物や水道・ガスへの影響など、生活への支障が懸念される。
関東大震災は火災による死者が9割弱。木造住宅が多く、燃えやすい家財道具を運んでの避難も被害を拡大した。いまも東京は、火災が広がりやすい木造住宅が密集する区域が残っている。
地震時には消防力を超える発火や延焼で、広域の大火災になる恐れが大きい。阪神・淡路大震災、2016年の糸魚川大火でも明らかだ。初期消火に努めるか、断念して広域避難場所に逃げるか、判断のタイミングも難しい。
■長期的視点の街づくり
首都圏の地下は、3枚のプレート(岩板)が複雑に入り組んで、さまざまな地震が繰り返されている。関東大震災は海溝型のM8級の地震だった。国が対策を進める首都直下地震はM7級だ。このクラスの地震は、阪神・淡路大震災など頻繁に起きている。
防災は、大きな災害が起きるたびに制度が改められてきた。顕在化した課題を一つずつ解決することは大切だが、現代社会が経験していなくても、潜在的なリスクが大きい災害もある。例えば、江戸時代の富士山のような大規模な火山噴火。東京などはゼロメートル地帯の洪水の危険も極めて大きいことを忘れてはならない。
首都の地震は、日本経済へのダメージも大きい。関東大震災の被害額55億円は、国家予算の4倍近くに及んだ。東日本大震災の約17兆円は2割弱だった。2013年の政府の想定ではM7級の首都直下で95兆円、関東大震災級ならば160兆円の被害だ。
少子高齢化社会での被災と復興となる。海外から支援を得られる態勢を整えておくことも必要だ。抜本的には、被害が大きくなる東京の一極集中、リスクが高い都市構造を、時間をかけても解消していくしかない。
物理学者で随筆家の寺田寅彦は「天災と国防」に、災害に対する警告に対して「当局は目前の政務に追われ、国民はその日の生活にせわしくて、そうした忠言に耳をかす暇(いとま)がなかったように見える」と書いている。
目前の課題解決も大切だが、便利さや利益に結びつかずとも、災害に強い社会作りを進め、被災時に受ける打撃を減らさねばならない。
■高まった不確実性
関東大震災では、情報が錯綜(さくそう)した。起きていない政治家の暗殺や火山の噴火などが新聞でも報じられた。
朝鮮人の武装蜂起や放火、投毒などの流言も広がった。それを信じた自警団や軍隊、警察の一部による朝鮮人殺傷事件が多発した。朝鮮人に関するデマを載せる新聞もあった。社会主義者らが殺傷される事件もあった。
千葉県では、香川県からの行商人が朝鮮人と決めつけられ自警団に殺された。この事件を取り上げた映画「福田村事件」の森達也監督は、状況によって「普通の人、善良な人が悪を犯す。誰にでもその要素がある」と話している。
当時とは情報が伝わる構造が大きく変わった現代でも災害時には情報が錯綜する。熊本地震ではライオンが逃げた、東日本大震災の際の火災でも有害物質の雨が降る、などの流言があった。ネットの発達で怪しげな情報が急速に拡散し、極端な言動が分断をあおる社会、それを踏まえた慎重な判断が求められる。
震災から1世紀、社会や都市が変わり、未経験の被害が起きる恐れが増している。
安穏とはしていられない。
からの記事と詳細 ( (社説)関東大震災100年 安全な社会になったのか:朝日新聞 ... - 朝日新聞デジタル )
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