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飲酒とがんの関係性は十分確立されている。でも、過去の研究の大半は、大量のアルコールが及ぼす影響に焦点を当て、飲酒量が徐々に増えた場合や飲みすぎが続いた場合の危険性を示すものだった。
裏を返せば、少量の飲酒なら無害ということになる。でも、世界保健機関(WHO)はパブリックヘルス専門誌『The Lancet Public Health』の中で同仮説を否定し、アルコールに安全な量はないと言い切った。
WHOによると、国際がん研究機関は約10年前にアルコールを発がん性物質のグループ1に指定した。グループ1にはアスベスト、放射線、タバコも含まれており、アルコールは少なくとも7種類のがんを引き起こす(大腸がん、乳がん、頭頸部がんなど)。
今回のWHOの指摘は、飲酒は週0回を目標とするべきであり、がんのリスクは週に3杯以上で著しく増加すると断言したカナダの最新ガイドラインに類似している。
がんのリスクがアルコール摂取量の増加に伴って上昇することはWHOも認めている。しかし、ヨーロッパの研究結果をまとめた最新のデータは、飲酒に起因するがんのケースの半数が軽~中程度のアルコール摂取によって起きたことを示している。EU(欧州連合)では、2017年だけで、軽~中程度のアルコール摂取による発がん例が約23,000件もある。WHOによると、2016年の飲酒に起因する死亡者数は全世界で300万人。疾患とケガの約5%も飲酒によるものと推定される。
このような数字からWHOは、がんのリスクは「あらゆるアルコール飲料の最初の1滴から」高くなると結論付けた。
でも、完全に禁酒するべきか否かという問いに対する答えは、ウェルネス業界にありがちなケースバイケース、“時と場合による”というもの。
がんのリスクと飲酒に関する基礎知識
一部の腫瘍学者によると、WHOは今回の発表を通じて万人に完全な禁酒を求めているわけじゃない。
でも、WHOがもとにした先述の研究結果は、いまの飲酒量でがんのリスクがどのくらい高くなるかを人々に考えさせるきっかけになる。
「今回のWHOの発表は、総人口だけでなく1人ひとりがリスクについて考えるための足掛かりです」と語るのは米レノックスヒル病院の放射線医学部長、ルイス・ポッターズ医学博士。「飲酒が一部のがんに関連していることは前から分かっていましたが、WHOは1滴も容認できないと言い切りました。これでは、個々のリスクレベルに応じてアルコールの摂取量を変える余地がありません」
具体的な例を挙げると、喫煙と飲酒を両方する場合は、どちらか1つの場合に比べてがんのリスクが大幅に高くなるので、喫煙者は禁酒を考えたほうがいい。でも、ポッター博士いわく他の危険因子が少ない場合は、ときどき少量のアルコールを摂取しても問題ないはず。
米オハイオ州立大学総合がんセンター婦人科腫瘍学部長のデイヴィッド・コーン医学博士によると、がんの危険因子の中には、遺伝的感受性のように修正が不可能なものもある。その一方で、飲酒はもちろん喫煙、体重過多、紫外線曝露といった危険因子は修正可能。
ということは、体重が1~2kg増えたり、日焼け止めを塗らずに日光を浴びたりするのも絶対NG? 「何事もトレードオフ。なにかを得たらなにかを失うという考え方です」とコーン博士。「これは、がんのリスクだけでなく健康全般にも言えること。私たちは常に損得を考えて判断を下しています」
米バレーマウント・サイナイ総合がんケアセンターの乳腺科長で、マウント・サイナイ・アイカーン医科大学医学助教授のエレオノーラ・テプリンスキー医学博士によると、がんのリスクと飲酒量を見直す上で覚えておいてほしいのは、どんな形状でもアルコールはアルコールであるという事実。「どんな種類のアルコールもがんのリスクを高めます。ワインは強いお酒より安全というのは誤解です」
ポッター博士によると、がんのリスクには飲酒量だけでなく健康に関わる行動も関係している。ハッピーアワーに繰り出すという1つの決断は、日常生活の中で行われる何気ない選択が積み重なって下されることを理解しよう。
「言うなれば3次元のチェスですね」とポッター博士。「どのくらい運動をしているか、どんなものを食べているか、環境汚染物質にさらされているか、タバコを吸ったことがあるか、既存の疾患があるか、どのくらいのストレスを抱えているか、といったことを総合的に考えなければなりません。すべての危険要因を緩和することは絶対不可能。だからこそ、緩和できる因子を緩和することが大切なのです」
健全な飲酒に向けて
今回のWHOの発表は、自分が持つリスクについて医師と話し合うきっかけになるかもしれない。でも、米プロビデンス・セントジョン・ヘルスの一般外科部長および腫瘍外科医で、セントジョンがん研究所の胃腸・肝胆道プログラムディレクターを務めるセンターアントン・ビルチク医学博士は、この発表を受けて大衆がパニックに陥ることを懸念している。
「WHOがアルコールをレベル1の発がん性物質に分類するのは、非常に無責任な行為です」とビルチク博士。「大量のアルコールが複数のがんや疾患のリスクを大幅に高めるのは紛れもない事実ですが、人々が何千年も摂取してきた飲みものに安全な量がないと言い切るのは人騒がせな気がします」
ビルチク博士いわくアルコールにWHOが言うほどの毒性があるのであれば、全世界のがんの診断件数はもっと、もっと多いはず。
かといってWHOのデータが間違っているわけではないし、自分の飲酒量を評価して、減らす必要があるかどうかを考えるのは賢明な行為と言える。でも、ときどき少し飲むだけで自動的にがんになると考えるのは、あまりにも短絡的というのがビルチク博士の見解。
「大事なのは危険因子に関する知識を増やすことです。アルコールだけでなく他の因子に関する知識も付けてください。自分ががんにかかりやすいかどうかも知っておく必要があります」とコーン博士。「あなたが行うことはすべて、健康な状態で生きられる年数に関わってきますから」
※この記事は当初、アメリカ版『Bicycling』に掲載されました。
※この記事は、アメリカ版『Runners World』から翻訳されました。
Text: Elizabeth Millard Translation: Ai Igamoto
からの記事と詳細 ( WHOが警告! 「アルコールに安全な量はない」 - Women’s Health Japan )
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