3つの軸で展開される濃密過ぎるストーリー
「龍が如く8」で特筆すべきだと思うのはなんといってもストーリーだ。本作はナンバリング最新作として、「龍が如く7」と、時系列的に並行している「龍が如く7外伝」の直系の続編となっている。「龍が如く7」で主人公を務めた春日一番と、「龍が如く7外伝」で再登板となった桐生一馬のダブル主人公となっており、彼らが背負った宿命と向き合いながら、それぞれが課せられた使命をハワイと日本で同時平行して遂行していく。
「龍が如く8」は、セガが誇るAAAタイトルらしく発表から発売まで綿密に情報公開のマイルストーンが設定され、発売前から多くの情報を知ることができていた。ゲームの舞台はハワイとなり、春日一番がなぜか全裸でワイキキビーチに放り出されていること。“ミスター龍が如く”桐生一馬がガンに侵され余命半年であること。そして春日一番は向田紗栄子にプロポーズしてこっぴどく振られたこと。いずれも抜き差しならない情報ばかりで、「『龍8』は、病床の桐生を尻目に、一番が紗栄子にハワイで再度プロポーズを目指すゲームなのか?」と、「龍が如く」ファンを大混乱に陥れてくれた(念のため書いておくと、この推測は全部間違っている)。
【『龍が如く8』ストーリートレーラー】
その情報公開は昨年夏の「RGG SUMMIT SUMMER 2023」からリリース直前まで断続的に続いており、いま見返すと、かなり際どいクリティカルなシーンをさりげなく見せていたりすることがわかるが、発売前に「龍が如く8」のストーリーを事前に読み切れた人間はいないはずだ。ハワイ編(という区分けはないが、便宜上そう呼ぶ)に関するストーリー情報はほとんど出してないし、エンディングノートもその意図は完全にふせられており、一番と紗栄子の恋路に関しては、2人はハワイと日本で離ればなれで、最後の最後までやきもきさせる。クリア後に振り返ると、とにかく事前の仕込みと仕掛けが絶妙だ。
【RGG SUMMIT SUMMER 2023 / 龍が如くスタジオ新作発表会】
春日一番がメインを張るハワイ編は、過去のシリーズがそうであったように、新しい舞台で、新しい登場人物が次々と登場し、土地柄、文化の違いを活かした表と裏、光と闇のストーリーが展開される。ハワイ、ワイキキに行ったことがある方なら、見覚えのある建物や通り、キャラクターが登場し、絶妙に現実の設定をまぶしたいかにもありそうなストーリー展開に引き込まれることだろう。終盤、広げすぎた風呂敷を畳むのに苦慮している印象はあるものの、春日一番と桐生一馬という2つの主題は、この上なく綺麗に描ききっている。
とりわけ春日一番の男気あふれる“信じ抜く力”は、ハワイの地でも遺憾なく発揮され、普通に考えてもっとも取らないであろう選択肢をあえてとって正面突破していく姿には、半ば呆れながらも、それが作品の魅力になっている。「龍が如く7」でも感じたことだが、春日一番の、あの桐生一馬に対して一歩も引けを取らない圧倒的な主人公力には改めて感心させられる。彼は今作を通じて「龍が如く」の主人公として絶対的な地位を確立し、そのポジションにもはや異を唱える人はいないだろう。
メインストーリーについては、「龍が如く」シリーズのセオリー通りの設計になっており、シリーズをプレイしてきた方なら、かなり前半部分で、誰が裏切って、どこでひっくり返って、誰が合流して、ボスとラスボスはこいつというのは見えてしまう。よく言えばわかりやすいが、悪く言えばパターン化しており、サプライズがあるとすれば、春日一番の決断に対してであり、これには最初から最後まで驚かされっぱなしだった。主人公の行動がもっとも読めず、でも一番が言うなら仕方がないかと思えてしまう。龍が如くスタジオは、もの凄い主人公を生み出したものだと思う。
そして「龍が如く8」のストーリー上の最大の凄味がエンディングノートである。ガンに犯され余命短い桐生一馬が、シリーズを通じて付き合いのある警察官 伊達真の引き合いのもと、過去に関係を持った人物たちと様々な形で再開を果たすコンテンツで、これがもの凄い。期待を遥かに凌ぐボリュームで構成されており、「龍が如く8」のもうひとつのメインコンテンツといっても過言ではない。
エンディングノートが凄いのは、現実世界の時の流れと絶妙にリンクした「龍が如く」シリーズの強みを存分に活かして、自分自身の過去を振り返るような錯覚に浸れることだ。追憶シーンは皆若々しく、若かりし頃の楽しい経験や、きつかったこと、若さゆえの過ちなど、実際に十数年前の経験であるため、「ああ、昔の神室町はこうだった」、「そういえば永州でこういうことあったなあ」などと、あたかも我が事のような気持ちになって振り返ることができる。ユニークなのは「龍が如く 維新!」や「龍が如く OF THE END」といった外伝作品も振り返りに含まれていることで、結果として「龍が如く」シリーズが総覧出来る仕掛けになっている。
注意点としては、コンテンツが丸ごと過去シリーズの振り返りになっており、プレイしていなければ全然わからない所だが、逆に言えば、この「龍が如く8」を起点に、過去作を遊びながら想い出をさかのぼっていくという楽しみ方を提供してくれているとも言える。世に出ている多くのレビューでは、弊誌含め、過去のシリーズ、せめて前作「龍が如く7」のプレイを推奨していると思うが、まったくのゼロから「龍が如く8」から「龍が如く」シリーズに入るという遊び方でも全然良いと思う。「龍が如く8」はそれぐらい懐の深い作品だと思うし、プレイする価値がある。
それにしてもエンディングノートには泣かされた。エンディングノートの中核を担うエンディングドラマは、すべて伊達真からの紹介でスタートし、過去に絡みのあった人物たちと、直接的、間接的に再開を果たしていく。今、シリーズの登場人物と再開したらどうなるかというifストーリーが覗けるのもおもしろいし、「龍が如く7外伝」をプレイした人にとっては、その続き的な感覚で楽しめるのも良い。ただ、それ以上に重要なのは、なぜ伊達はわざわざ日本中から人を集めるような、そういう手間暇のかかることをしているのか、だ。
メインストーリーを進めながら少しずつエンディングドラマを消化していく過程で、伊達真がゲームコンテンツ上に設置された単なる狂言回しだけの存在ではなく、彼自身がある意図を持ってやっていることに気付く。エンディングドラマ第8話のラストシーン、桐生一馬と伊達真の最後の会話は、ゲーム史上屈指の名シーンで、これを見るだけのために本作をプレイする価値があるといっても過言ではないし、ゲーム体験はついにここまで来たかという感慨深い気持ちにもなった。これを見ずにクリアするのはあまりにももったいない。「龍が如く8」をプレイする方はぜひエンディングドラマは最後まで進めて欲しい。
そしてもうひとつ忘れてはならないのは、一番と紗栄子の恋路の行方だが、先述したように、春日一番はハワイ、向田紗栄子は日本でゲーム中の大半の時を過ごすため、直接語り合う機会は序盤と終盤にしか訪れない。この2人をかろうじて繋ぐ役割を担うのが桐生一馬で、死を覚悟した伝説のヤクザ、堂島の龍が放つ台詞は1つ1つが重みがあり、この役回りはとても味わい深い。ヤクザ、宗教、自然破壊、ガンなど極めてシリアスなテーマを扱う本作において、一服の清涼剤と言える要素でもある。この恋路は、ダブル主人公のストーリーに比べれば、おまけのおまけ的存在だが、最後まで愉しませてくれるし、シリーズに新たな可能性を感じさせる要素でもある。
からの記事と詳細 ( 「龍が如く8」クリア後レビュー - GAME Watch )
https://ift.tt/9oume04
No comments:
Post a Comment